2021-01-01から1年間の記事一覧

映画「ハッピーアワー」を現実において生きること

千葉県柏市にあるキネマ旬報シアターで、濱口竜介『ハッピーアワー』をみた。圧巻の長尺317分。5時間を超える壮大な人間ドラマの中で描かれていたのは、ありふれた「普通」の生活を送る4人の女性の、明らかに「普通」ではない人生の軌跡だ。 上であえて「普…

20211229

友達のライブをみに下北沢へ行った。自分達の歌に対して真剣に、誠実に、全力で向かい合う姿は、ステージ上で疑いようもなく輝いていた。数々のライブを共にしてきた戦友は、ライブの途中で「あなたと今を楽しみたいだけなんだ」と叫んでいた。それはきっと…

20211228

ポーラ美術館で、「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」をみた。大きな水の写真の節々に膨大な注釈を施した作品を目にした時に僕が思ったことは、「考えることをやめてはいけない」という、ごく単純なことだった。ポジティ…

偶然と想像、あるいは言葉とやさしさの創造について

今日はとにかく沢山好きな作品に触れて、ひとつひとつへの感慨を正確に記録しようと昨日の夜から心に決めていたので、朝から近所の喫茶店でモーニングトーストを食べながら堀江敏幸『定形外郵便』を読み、その足で厚木の映画館に向かった。道中の車内では、…

物思いの秋

日が落ちるのがだいぶ早くなって、意味もなくあれこれと考え込んでしまう時間が多くなった。「読書の秋」「食欲の秋」「芸術の秋」という、誰が定めたのかもよく知らない連体修飾語たちは、秋の気候が醸し出す物悲しい印象とは裏腹に、各々が好きな趣味を前…

20210811

東京国立近代美術館に行って、隈研吾展をみてきた。コロナ禍にも関わらず会場は多くの人で賑わっていて、文字通り息つく暇もなく一気に展示を見ていたのだが、まず圧倒されたのが彼の建築物の途轍もない量だった。60代後半という年齢にも関わらず、近年も国…

20210719

この年になって、わたしにもわかってきた。大事なことは、少し遅れてやってくるんだってーー伯母さんが詰めてくれた杏のジャムみたいに、そして、だれかを想う心の疼きみたいに。 (堀江敏幸『オールドレンズの神のもとで』「杏村から」より) 休日明けの月曜…

20210109

文學界創刊一〇〇〇号記念特大号を読んだ。 あるニュースが出回った時、それに対する匿名一般人のコメントが共有されやすい世界になったと思う。さらに言えば、ニュースで取り上げられている言説や、政治家が表向きに語る公約よりも、SNSやネットニュースの…