新宿駅

  音が聞こえている。ぐわんぐわんと頭の中で鳴り響いている。だけどそれは音楽みたいな素敵な響きじゃない。ザーザーザー。人身事故の影響で、電車に遅れが出ています。隣のホームの発車ベル。駅員に怒鳴り散らす男の声。大学生の笑い声。ワーワー。キャーキャー。話し声。話し声。声ともつかない声。
  僕はホームに立っている。鼓動の音は聞こえない。

  音は無数に重なり合っている。音楽じゃないと言ったのは、単純に、それが心地良くないからだ。だけど自分にとって心地良くない音楽を「音楽じゃない」と言い張るのは、なんだか堅物な批評家のようで情けない。だから、これは本当は音楽なのかもしれない。
  それでも僕にとってこの音楽は聞くに耐えない。それは懐が狭いからだ、と内なる声が聞こえる。どの音楽も、みんな違って、みんないいですね。嫌いだった音楽教師の声が聞こえる。それらの声はホームに鳴り響く音楽と混ざり合い、何オクターブにも渡る壮大な和音となって僕に襲いかかる。そこに僕は立っている。僕は鳴り響く和音の格調を損なう。不協和音に変わる。ごめんなさい。そんな妄想。